概念と歴史
尊厳と人権の哲学的・倫理学的探究
本サブユニットは、尊厳と人権の哲学的基盤を探求し、過去の哲学および倫理思想を通じて個人の存在意義や価値について分析することによって、現代社会における尊厳と人権の実践的意義を明らかにすることを目的とする。この目的を達成するために、以下の二つのアプローチをとることを予定している。
一つ目のアプローチは、概念分析的なアプローチであり、主に一八世紀ドイツの哲学者イマヌエル・カントの実践哲学に焦点を当てる。カントは『人倫の形而上学の基礎づけ』において「すべての人格が単に手段とならず同時に目的として扱われなければならない」という命法を掲げ、その帰結としてすべての人格には尊厳という絶対的な価値が備わっていると述べているが、この定式化が現代の尊厳概念に大きな影響を与えている。そこで尊厳がカントによってどのように根拠づけられ、どのような実践的な効果をもっているかを検討する。
また、尊厳はもともと道徳的な概念であったが、とりわけ第二次世界大戦以降、「世界人権宣言」や各国の憲法のなかで基本的人権の基盤として法的概念としても扱われるようになっている。この状況を踏まえ、カントの道徳哲学と法哲学のそれぞれの解明と両者の比較を通じて、現代的な議論の妥当性と限界を測る。
二つ目は、通時的・比較思想史的なアプローチである。具体的には、ソクラテスとプラトン、アリストテレスやストア派、アウグスティヌス、トマス・アクィナスなどの古代中世の哲学者や学派、およびホッブズ、ロック、J・S・ミル、ロールズ、ハーバーマス、レヴィナス、アーレント、ヌスバウムなどの近現代の哲学者の思想を通じて、個人がもつとされる絶対的価値としての尊厳や人権がどのように捉えられ、根拠づけられてきたのか、そして尊厳や人権といった概念が社会のなかでどのような役割を担ってきたのかを探究し、現代社会における人権と尊厳の重要性とその実践的意義を解明する。