PROJECT

科学と未来

エコーチェンバーの脳神経システムおよび精神構造への影響に関する実証研究(略称:脳の仕組みと社会病理)

手のひらに収まる小さな画面を指先でつつくだけの情報端末の先には、高精細な視聴覚情報が際限なく広がる時代になりました。ヒトが視聴覚刺激に対して本能的、反射的に応答する時間は約300ミリ秒。一方で、インターネット上の情報パケットが世界を一周するのに要する時間は130ミリ秒。途中にAIが入り込んで情報操作が行われていたとしても、ヒトは気づくことができません。インターネットとAIのコンビネーションがいよいよ、人間の本能、反射、無意識のレイヤーに介入する時代に突入したと言えるでしょう。

さらに言えば、ヒトの脳はさまざまな“歪んだ”認知特性を持っていることが知られていますが、インターネットとAIのコンビネーションはこのピットフォールの存在を明らかに攻撃対象とした情報戦争を仕掛けているように見えます。実験心理学領域で研究されてきた正常性バイアス、確証バイアス、敵対的メディア認知といった特性は、高速で大規模な情報のやりとりの中に構築されたメディアやeコマースが実験場となって次々と実証的に“ハッキング”され、これが巧みに利用されるようになりました。

本サブユニットでは、情報空間上で顕在化している特殊な政治論争、ステマ、オンラインいじめなどの「症状」がなぜ分かっていても止められないのか、なぜ知らぬ間に当事者になってしまうのか、というその「病理」を人間の脳神経システムの仕組みから明らかにします。倫理的、法的、社会的な対策を考えるその前に、「なぜ人間は、そうなのか?」の根本を知る。そうした姿勢でこのサブユニットは活動を広げていきます。